永遠の0

 山崎貴 「永遠の0(2013)

司法浪人中の健太郎(三浦春馬)と出版社に勤める姉の慶子(吹石一恵)は、祖母の死をきっかけに、亡くなった祖父が実の祖父でないことを知る。実の祖父である宮部久蔵(岡田准一)は第二次世界大戦の際に特攻で死に、終戦後に祖母(井上真央)は再婚したのだ。

宮部久蔵に興味を抱いた二人は、久蔵を知る人達を訪れたが、彼らの反応はまちまちだった。久蔵のことを臆病者と言う人もいれば、勇敢だと言う人もいる。果たしてどちらが真実なのか...

宮部久蔵は腕利きのパイロットだったが、敵との戦闘の際には巧みに逃げ回っていた。国のために死ぬのが当然とされたいた時代に、このような態度は周りから批判されることになる。

宮部が戦闘への参加を避けていたのは、妻と娘の元に生きて帰りたいという願いからだった。また、前線から外されて、パイロットの指導教官という間接業務に異動させられてからは、訓練中のパイロット達になかなか「可」の成績を付けなかったが、これは彼らを特攻に参加させたくなかったからだ。時代の空気に流されずに、己の信念を貫く姿は勇敢だと言えよう。

ある時、ゼロ戦による、かなり遠方への攻撃が企画された。この作戦について、往復のみで燃料を使い果たしてしまうので戦闘に割ける時間が殆ど無い、という見解を述べた宮部は、上官に叱責されてしまう。この場面は、経済と物量の面で圧倒的に上回るアメリカに対し、戦略や計算の無いまま精神論のみで戦いを挑んだ日本に対する痛烈な批判となっている。

妻と娘のもとに生きて帰りたいと願っていたはずの宮部が、最後には自ら特攻に志願してしまう。監督はこの理由を直接説明せずに、観客の解釈に委ねている。本作に対して、戦争や特攻を美化しているという批判があるのは、恐らく宮部が特攻に志願したからだろう。しかし僕は、宮部が特攻に志願した理由は、自分が指導したパイロット達が何人も死んだのに自分だけ生き残っていることに対する自責の念ゆえと解釈した。そうであれば、本作は戦争や特攻の美化とは程遠いところに在る。

日本にとって、あの戦争は一体何だったのだろうか?世論は鬼畜米英を倒せと沸き立ち、国民は竹槍で爆弾に対応せよと教わった。その結果が、多大な死傷者が出た敗戦だ。戦略も無しに時代の空気がナショナリズムに染まるのは危険だ。宮部は時代の空気に抗おうとしたのだ。

三浦春馬の演技は若干不自然だが、岡田准一井上真央は見事だ。

★★★★★