運命を分けたザイル

新宿タイムズ スクエアで観た映画「運命を分けたザイル」(Touching the Void)が面白かった。

 ドキュメンタリ フィルムの多くは、そこで描かれている歴史的事実自体が重要であり、映像作品としての面白みが薄い。しかし、雪山を登山中に遭難した二人の登山家の経験を描いたこの作品は、事実自体の重さだけでなく、映像の緊迫感が強い印象を残す。

 1985年、ペルーはアンデス山脈未踏峰シウラ グランデ(6600m)に、英国人登山家ジョー シンプソンとサイモン イェーツが挑む。苦労しながらも終に頂上に立つ二人。しかし、下山は登りより更に困難を極めた。足場が崩れた際に、ジョーは足を骨折してしまう。死と紙一重の極限の状況で、サイモンは、自らとジョーの体をザイルで結びつけて、ジョーを少しずつ下に降ろしていく。次の瞬間、ジョーは足場を踏み外し、垂直に切り立った氷壁に宙吊りになってしまう。指の感覚も無くなり、ザイルをよじ登ることもできないジョー。サイモンのいる場所からは、そんなジョーの姿も見えない。このままでは自分も死んでしまう。サイモンは終に、ザイルを切断するという決断を下す…

 驚くべきことに、サイモンだけでなくジョーも奇跡の生還を遂げる。映画は、登山のシーンを俳優が演じ、合間にジョーとサイモン本人が当時を回想する姿が差し挟まれる。恐らく困難を極めたであろう現地での撮影が、迫真の映像を生み出している。若干気になったのが、後に当事者たちが当時の状況を語る姿だ。当たり前だが、現在の平安な姿と遭難当時の極限状態の落差が激しく、映像の緊張感がしばしば中断されてしまう。本人たちが出る場面をもっと少なくするか、姿を見せずに声のみの出演にしたほうが、映像の緊張感が高まったと思う。と、若干不満な点はあるが、全体的にはとても良い映画だ。

★★★★・