地獄の黙示録

プラズマTVとホーム シアター セットを買った記念に、四半世紀ぶりにフランシス フォード コッポラの地獄の黙示録(特別完全版)を観た。

 

序盤、米軍のヘリコプター隊がベトナムの村を爆撃する。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を大音響で鳴らしながら駆け巡るヘリコプター群が、爆弾や機関銃を村に浴びせる様は、圧倒的な迫力だ。しかし、ヘリコプター隊が海辺のこの村を爆撃対象に選んだ理由―それは「サーフィンをしたい」というキルゴー中佐(Robert Duvall)のわがままだ。サーフィンをするために村民を殺戮する―戦争で正気を失った人間の姿がここにある。

 

ベトナム戦争末期、ウィラード大尉(Martin Sheen)はカーツ大佐(Marlon Brando)暗殺の密命を受ける。軍に謀反したカーツは、カンボジアのジャングルに自らの王国を築き上げ、原住民から「神」と崇められているのだ。

 

ウィラードの一行は、船でジャングルの川を遡りながら、戦争の狂気を目の当たりにする。ヴェトコンの攻撃を受けたりしているうちに、部下たちの精神状態も段々おかしくなってゆく。一見理性的なウィラードも、途中で出くわした無実の村民を、邪魔だからと無情に殺害してしまう。

 

「動」で幕を開けた映画は、徐々に「静」の色彩を強めていく。カーツの王国に辿り着いたウィラードは、捕らえられてカーツと対面する。薄明かりの中で、時には詩の朗読も交えながら静かに語るカーツ。一見穏やかな風貌の中に狂気を宿す、マーロン ブランドの異様な存在感。

 

王国の祭りの夜。監視の目をかいくぐったウィラードが、生贄の牛に鉈が振り下ろされようとする瞬間にカーツに斧を振り下ろす場面は、美しくも残酷で、鮮烈な印象を残す。カーツを殺害したウィラードの前に、原住民たちが跪く。新たな「神」の誕生だろうか…

 

重層的なメッセージが込められた難解な作品だが、戦争とそして人間の狂気が見事に描かれている。「特別完全版」は初回版より50分以上も長いが、場面の追加は冗長な感じを与える。初回版は★★★★★、特別完全版は★★★★・。