「しのはら」は人気の高い銀座の和食店だ。料理が美味しく、明るい大将も親しみやすく、満足した。
10人位掛けられるかなり長いカウンター。内装は簡素ながらも上品。夜は2回転で、全ての客が同時に食べ始め、大将が全員に対して同時に料理を説明するというシステムだ。
先付はウルメイワシや海老や貝など。ウルメイワシは硬くて食べにくかったが、他の素材は良かった。微かな酸味のあるジュレで味を整えているのが効果的。
続く皿は、焼いた河豚と雲丹。ネットリとした食感の組み合わせに陶然とする。この皿も微かな酸味で味を整えており、先付と同様に酸味の使い方が上手い。
蟹真薯の椀は、真薯に蟹の硬い腱の部分が若干混ざってしまって少し食べにくかったが、全体的には良質で、出汁も良い。
続く皿は、貝や蕪系の野菜を、フランス料理のヴルーテを思わせるソースで和えており、食感がとても滑らか。
餅は単純そうに見えて、焼き方が良い。中にカラスミが隠れている。
揚げ物はスッポン。脂を感じさせる素材だが、脂を削がずに積極的に脂を楽しませる調理法だ。少し間違えば下世話になりかねないが、上品さも保っており、癖になりそうな美味しさだ。
変化球として鮪の巻き寿司が出てきた。舎利は鮨店みたいに酢飯だ。一口で食べ切れない大きさで、中の具が溢れそうで食べにくかったが、味は中々のもの。
焼いた鶉は、少量ながら旨味が凝縮されている。焼き物は炭火で焼いている。
八寸のプレゼンテーションが面白い。照明の外側は薄切りの大根の皮で、細かいところにも手が込んでいる。数の子、蛸、鮭、蓮根、稲荷寿司など、少しずつ楽しめる。
フォアグラ最中の作り方は詳しく訊かなかったが、フォアグラに恐らく別の素材を和えており、しつこく無い味わい。酒の合わせ方が良い。フランス料理店でフォアグラにソーテルヌを合わせることがあるが、この店ではフォアグラに合わせてワンポイントで甘口の日本酒を出す。とても良い組み合わせだ。
鴨の椀は、鴨も出汁も優しい味わい。「つくね」との食感の組み合わせも効果的。
ご飯には大根を炊き込んでいる。併せて出てきた炭火焼きの鰯は、適度な脂の乗りも焼き方も良い。家庭料理的な感じがしつつも家庭では真似できない絶妙な味だ。鰯は意外と量が多く、胃がキツかったが、美味しかったので、完食できた。
甘味は和食らしいあっさりとしたもの。
夜の2回転をこなしているだけに、皿出しは順調で、2時間強で食べ終わった。早食いな僕には、この程度の短い時間が丁度良い。
大将の明るい性格が伝播し、カウンターは和やかな雰囲気に包まれる。我々は焼き場の側に座ったが、焼き物担当の方も積極的に話しかけてくれた。店員の人数が多めで、接客は快調。
料理は美味しく、大将が明るく、カウンターの雰囲気は和やか。人気の高さに納得した。
8/10