プライベート ライアン

Steven Spielberg, Saving Private Ryan (1998)

この映画を観る者は、戦闘場面の迫真の描写に圧倒されると共に、戦争の理不尽さに想いを巡らすことになる。3時間近い長尺の作品だが、その長さを感じさせない。

第2次世界大戦における連合国のノルマンディー上陸を描いた冒頭部は、壮大かつ細部まで良く練られており、息を呑む出来映えだ。海岸の崖の上に陣取るドイツ軍の方が当初は圧倒的に優勢で、最初に上陸したアメリカ軍兵士の多くがいとも簡単に死んでしまう様に、胸が締め付けられる。

多大な犠牲の上に何とか上陸を果たしほっと一息つくキャプテン ミラー(トム ハンクス)に、奇妙な軍令が下る。ライアン4兄弟の内3人がほぼ同じ時期に戦死したことを知って胸を痛めた将軍の指示により、パラシュートで落下してまだ生き残っている(かも知れない)もう一人のライアンを救いだして本国に帰還させろ、と言うものだ。ライアン3兄弟の戦死は確かに痛ましいことだろう。しかし、何千人という兵士が戦死している最中に、一人の兵卒を救うために特殊部隊を編成するというのは、将軍の単なる気まぐれであり、馬鹿げた話だ。

たとえ理不尽であっても命令には絶対服従するのが軍隊の世界。ミラーの特殊部隊は内地に行軍するが、その過程でもドイツ軍との戦闘が起き、一人の兵士が命を失ってしまう。ここに至って理不尽な任務への不満を抑えきれなくなった一人の兵士が任務続行を拒み、別の兵士との間で一触即発の状態となる。この場面の緊張感溢れる描写は見事だし、危機を打開するために取ったミラーの言動も意表を突く。

ミラー達は遂にライアンを見つけ出すが、仲間を置いて帰国するわけには行かないというライアンの意を汲んで、ライアン達と共にドイツ軍との戦闘を続行する。装備の点で優位なドイツ軍に対抗するために、周到な待ち伏せ計画を練るミラー達。やって来たドイツ軍の戦車部隊とミラー達との死闘も、息詰まる迫力だ。肝心な時に果敢な行動をとれない臆病な兵士の描写も、作品の幅を拡げている。

自身この任務を理不尽だと思いつつ、部下を率いるために毅然とした態度を取るミラーを演じるハンクスが素晴らしい。援軍の到着により状況が優位に好転しようとする正にその時に、ミラーは銃撃を受けてしまう。命を落とす直前にミラーがライアンに残す言葉。このような状況ではアイロニカルに聞こえかねないその言葉も、ハンクスの口から出ると深い感銘を残す。

★★★★★

(WOWOWで録画)