復讐するは我にあり

今村昌平復讐するは我にあり(1979)

 

昭和38年の日本。警察の厳重な捜査をかいくぐりながら、詐欺と殺人を繰り返した榎津巌(えのきづ いわお)が、遂に逮捕、処刑される。本作は、この男の人間性や歪んだ家族関係、犯行の軌跡などを描いた作品だ。

 

良識が完全に欠落し、しかも尋常でない性欲を持つ榎津を演じる、緒形拳の演技が圧倒的だ。詐欺を働く際は親切で柔和な榎津が、人を殺す際は一転して冷めた狂気を宿した表情を見せる。本作を見る者は、榎津が何故これ程までに犯罪を繰り返すのか理解できない。演出も、そして緒形の演技も、意味づけを拒絶する。観客は、榎津の途方もない人間性の欠如に打ちのめされるばかりだ。

 

濃厚な官能も見る者を捉えて放さない。例えば、巌が服役中に、身体を持て余した妻(倍賞美津子)が義父(三國連太郎)を温泉で誘惑する場面。嫁が義父の背中を流しだした時から、ただならぬ出来事が起きそうな気配が拡がる。倍賞の体型が若干崩れているのが、更に生々しい感じを生み出す。

 

そして、榎津が逃亡先の浜松の安旅館で過ごす様。榎津が売春婦を抱いているところを覗き見する、大女将(清川虹子)のねっとりとした視線。榎津と若女将(小川真由美)が情交する場面は、天井からの撮影が鮮烈だ。

 

強い印象を残す作品だが、140分という尺はやや長すぎる気がする。個々の場面の演出や映像が濃厚なので、この長さではやや疲れてしまう。もう少し短い方が良かったと思う。

★★★★・

(WOWOWで録画)