バスク地方食い倒れ

ここ数年、スペインのバスク地方の料理が気になっていた。特にSan Sebastianは人口当たりのミシュランの星が一番多い都市だという。今回は主に食が目当ての旅だった。

一番の目的はSan Sebastianだが、妻がMadridにも行ってみたいと言うので、Madrid 3泊、San Sebastian 3泊、Bilbao 1泊という旅程を組んだ。

7月23日(土)

行きはいつものMKタクシーを予約しておいた。碑文谷の自宅から羽田空港まで45分。

日本からスペインまでの直行便は近いうちに出来るそうだが、現時点では無い。今回は、行きは羽田発、ミュンヘン経由、マドリッド着、帰りはビルバオ発、フランクフルト経由、羽田着のルフトハンザを選んだ。ルフトハンザにしたのは、羽田発のビジネスクラスの内、最も安かったから。フルフラットなので快適だが、機内食ANAJALなどの日系キャリアに比べて、大きく劣る。行きは和食を選択したのだが、不味かった。帰りは洋食にしたのだが、これは和食よりはマシだった。

マドリッドに到着したのは22時近くになってから。その日はもう寝るだけだ。空港までクルマで迎えに来てもらったのだが、駐車場で何か問題があったらしく、中々駐車場を出られない。この辺りがスペインか。10分くらいして別のクルマに変えて、空港を離れた。

マドリッドのホテルはUrso Hotel & Spa。立地は市街の北の方であり、主な観光地からはやや離れているが、ホテル自体は素晴らしい。富豪の邸宅を改装したと思われるブティック ホテルだ。部屋はシックかつシンプル。シャワー ブースが狭いが、欧州のホテルでは仕方ないか。

★★★★★

Urso Hotel & Spa

http://www.hotelurso.com/en/index.html

Mejía Lequerica 8 · Madrid 28004

+34 914 444 458

info@hotelurso.com

 

7月24日(日)

ホテル近くの地下鉄は長期工事中で使えない。従って、マドリッド滞在中は、徒歩かタクシーで移動した。ホテルの従業員に聞いたところ、地下鉄の治安は、スリはあるが、身が危険になるようなことは無いそうだ。結局地下鉄は使わなかったが…

ホテルからソフィア王妃芸術センター(★★★★・)までは徒歩で30分程度。ここはピカソやダリやミロが充実しており、ピカソゲルニカで有名だ。

ホテルからここ迄の間は治安も悪くなさそうだし、道は幅広く中央が公園となっており、歩いていて気持ちがいい。

ソフィア王妃芸術センターから歩いて10分程でプラド美術館(★★★・・)。ここはベラスケス、ゴヤ、エル グレコが充実している。この3人には余り興味は無かったが、ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルノ」には異様な迫力を感じた。

今回の旅行では、サンセバスチャンとビルバオの食事が主な目当てだったが、マドリッドには期待していなかった。マドリッドのいいレストランの殆どは、日曜日と月曜日が休みだからだ。プラド美術館を見た後、近くのHuerias通りでレストランを探す。中々美味しそうなところが無く、最終的に選んだ店の料理も、不味くはないが印象に残らなかった。

昼食後は、マドリッド市庁舎の8階(日本式だと9階)の展望台に上る。高い建物の少ないマドリッドでは、これでも「高層」に属する。眺めは良い(★★★★・)。市庁舎に入る際にも、荷物をX線で検査していた。

朝は余り感じなかったが、午後になるとかなり暑い。東京の夏並みだ。日差しが強いので、影も濃い。マドリッドは光と影の街だと感じた。市庁舎からTemplo de Debod (★★★・・)まではタクシーを利用した。これは古代エジプトの神殿で、アスワン ハイ ダムの建設に伴い、マドリッドへ移設されたものだ。

Templo de Debodから王宮まで歩いたのだが、夕方になっても西日が強く、歩くとかなり疲れる。王宮(★★★・・)はさすがに巨大かつ壮麗だ。

夕食はバルの多いPlaza San Miguelで摂ることにした。どの店が良いのか全く見当がつかず、なかなか決められない。

最終的に決めたTaste Galleryという店は、タパスのセットや英語のメニューも有り、立ち飲みだけでなく座ることもできた。接客した従業員は、英語の発音から英国人だと直ぐ判ったが、聞いてみたら実際に英国人だった。観光客向けの店かも知れないと危惧したが、味はなかなか良かった。★★★★・

Taste Gallery

Plaza San Miguel 8

http://tastegallery.es/en/

Taste Galleryからホテルまではタクシーを利用。

7月25日(月)

今日は日帰りで古都Toledoへ。ホテルからタクシーでAtocha駅まで行き、そこで高速列車に乗る。発車時刻になってもプラットフォームも決まらず、事態が理解できず不安になったが、周りのスペイン人達の後を追って何とか凌いだ。結局発車は20分遅れ。この辺りがスペインか。ここでも荷物をX線で検査するので、乗車に時間が掛かる。テロが殆どなく、新幹線で荷物検査をしない日本は平和で良い。

トレドでは先ず教会を訪れる(★★★・・)。壮麗なゴシック建築で、中にはエル グレコの絵が数多くある。

トレドの街(★★★・・)は、道が狭く、小さな建物が密集している。数年前に訪れたトスカーナの町々に雰囲気が似ているが、町からの眺めはトスカーナの方が良かったか。

行き当たりばったりで入ったレストランの昼食は平凡だった。

マドリッドに戻り、ホテルで少し休憩してから買い物に出かけた。歩いてセラーノ通りまで行き、ロエベなどを廻る。その後、ガイド ブックに載っていた老舗のバルまで行ったが、なぜか休業していた。歩き疲れていたので、近くのレストランに飛び込んだが、これが正解だった。現代的なワイン バーといった雰囲気の店だが、料理の水準もかなり高い。突き出しのヴィシソワーズは、やや甘めの味だが、この店が旨いと予感させる。ロブスターのサラダ、春巻き風の揚げ物、イカスミのラビオリなどに満足した。二人で€120。手頃の料金も評価し、★★★★★

Ultramarinos Quintin

Calle Jorge Juan, 17, 28001 Madrid

7月26日(火)

マドリッドからサンセバスチャンまではイベリア航空の飛行機を使うはずだったが、本旅行で最大の危機が発生した。日本の国内線の感覚で、11時の出発1時間前にマドリッド空港に着いたのだが、チェックインの締め切りが出発1時間前だったのだ。そうとは知らずに、列に30分程並んだあとで、チェックイン カウンターで締め切りを過ぎた旨を伝えられる。次の飛行機は20時発だ。旅行代理店のスペイン支店に電話したところ、バスの利用を勧められる。市内に戻ってバスを確認すると、13:00発、19:45着のバスがあった。料金は一人€36。かなりの長旅になってしまうが、これしか選択肢は無い(列車も有ったかもしれないが)と思い、このバスにした。このバスも出発が20分程遅れ、しかも行先表示板に書いてあったのとは異なるターミナルから出発した。この辺りがスペインだ。隣のスペイン人に状況を教えてもらったので、何とか対応できたが。

マドリッドからサンセバスチャンに近づくにつれて、景色が明らかに変わる。マドリッド近郊は土地が痩せ、色彩の基調が土色だ。しかし、夏以外は雨の多いサンセバスチャンに近づくと、木々が増え、景色が緑色になる。同じ国でも随分異なるものだ。

サンセバスチャンでは、ガイドにバルと街の案内を頼んでいた。14:30開始の予定だったが、遅れる旨を伝え、20:15開始に変更してもらった。快く変更対応してくれたガイドに感謝。

ガイドには4軒のバルに連れて行ってもらったが、料理は写真を撮らなかったし、店の名前も2軒しか覚えていない。料理は美味しかったが、4軒も梯子すると最後は腹がきつくなる…

覚えているうちの1軒はLa Vina。焼いた蛸と、セップ茸の卵とじが美味しい。満腹で食べられなかったが、チーズケーキも名物だそうだ。★★★★★

La Vina

http://lavinarestaurante.com/en/

Calle del 31 de Agosto, 3

PARTE VIEJA 20003 Donostia

Saint Sebastian hotel

サンセバスチャンで泊まったホテルはMaria Cristina。海には面していないが、旧市街まで5分程という位置にあり、大き目な高級感のあるホテルだ。普通の部屋でも広さは十分。その分、値段も高めだが… ここもシャワーは狭いが、欧州のホテルなので仕方ない。★★★★★

Hotel Maria Cristina, a Luxury Collection Hotel, San Sebastian

http://www.hotel-mariacristina.com/en

Paseo Republica Argentina, 4, San Sebastian, 20004, Spain

Phone: + (34) 943 437 600

7月27日(水)

サンセバスチャン二日目の朝は、海のそばのUrgullという小山に登る。そんなにきつくなく、歩いて30分ほどだ。僕は有難味を感じないが、頂上にはキリスト像も有る。頂上から眺める海は美しい。★★★★・

この日の昼食は市内のIbaiというレストランで摂った。ここは店に直接行かないと予約できないが、ガイドに予約してもらっていた。バーの地下という、少し変な立地だ。ここの料理は、技術的には家庭料理といった感じだが、素材が良い。

ロブスターのサラダは、若干硬めだが、中々のもの。浅蜊のリゾットは、素朴だが、しみじみとした味わい。二人分だという平目は、驚くほど大きい。これを単純なムニエルで食べる。身を丸ごと食べたが、店員がスペイン語で何かを促している。どうやら周りの縁側の部分も食べろということらしい。もちろん縁側も美味しく頂いた。★★★★・

Ibai

Getaria Kalea, 15, 20005 San Sebastian - Donostia, Spain

Phone Number: 943428764

昼食の後は、サンセバスチャンの街を散策する。ここの魅力を言葉にするのは難しい。観光名所が沢山あるわけではない。しかし、落ち着いた洗練された街並みだ。マドリッドに比べて涼しいのも良い。日中でも気温は20度台半ば程度だ。食事が美味しいこともあり、今まで旅行した街の中で、最も好きなうちの一つだ。★★★★★

この日の夜は、旧市街のバルを2軒回って、ピンチョスをつまんだ。ホテルでもらったガイド ブックでは、ピンチョス バルを、”Traditional Pintxos”と”Modern Creative Pintxos”の二通りに分類している。1軒目は”traditional”なLa Cepa。ここのピンチョスは全てパンに乗っている。パンと一緒に食べると、それだけで満腹になってしまう。味も余り印象に残らない。★★★・・

2軒目は”modern”なSirimiri。ここのイカスミのコロッケは絶品だ。イベリコ豚のソテーとフォアグラも中々のもの。★★★★・

Sirimiri Gastroleku

Calle Mayor, 18, 20003 San Sebastián

7月28日(木)

サンセバスチャン3日目も、昼食以外は街やコンチャ湾を歩いて過ごした。1週間連続して滞在したら少し飽きてしまうかもしれないが、2日程度では歩くだけで十分楽しい。

この日の昼食は、市街からタクシーで15分程のミシュラン一つ星Mirador de Uliaで摂った。席に通され、先ずは丘から眺めるコンチャ湾と街の絶景に息を呑む。こんなに景色のいいレストランは、数少ないのではないか。ここで景色を楽しむのなら、昼食が良い。無言で窓の外を眺め続ける。

ここはアラカルトとMenu Degustationの二種類がある。こういう場合、僕はアラカルトを頼むことが多いのだが、ここではMenu Degustationにした。皿数が多いこともあり、全ての皿が強烈な印象を残したわけではないが、全体的に極めて水準が高い。特に気に入ったのがトマト。トマトの中に何か(パプリカ?)が詰まっている、甘みと酸味が見事なバランスを保っている。ワインはお任せでスペインのワインを何杯かグラスで出してもらった。銘柄は控えていないが、とても良かった。ここの食事は長く記憶に残るだろう。二人で約€230。★★★★★

Mirador de Ulia

http://www.miradordeulia.es/en/

Paseo de Ulía, 193, 20013 - San Sebastián

この日の夜は昼食の満腹感が続いていたが、思い出に無理に1軒だけバルに寄った。初日にガイドに連れて行ってもらったAntonioだ。ガイドは客層が良いと言っていたが、そんな感じだ。雰囲気もどちらかと言うと現代風か。ここの蛸のマリネは素晴らしかった。僕は弾力のある蛸を触感を好むが、ここの蛸はかなり柔らかい。通常の好みとは異なるが、それでもとても気に入った。隣の客が食べていたコロッケみたいなもの(中は魚のすり身だった)を指さして頼んだが、これも良かった。★★★★★

Antonio Bar

http://www.antoniobar.com/

7月29日(金)

Maria Cristinaをチェックアウトし、バスで1時間半ほどかけてビルバオへ向かう。一人€12.51。今回は問題は特になし。

Bilbao hotel

ビルバオのホテルはNH Collection Villa de Bilbao。高級感はないが、機能的で部屋の広さも問題ない。旧市街までは歩いて30分程かかるので、観光に便利な立地ではない。★★★★・

NH Collection Villa de Bilbao

http://www.nh-collection.com/hotel/nh-collection-villa-de-bilbao

Gran Vía, 87. 48011, Bilbao, Spain

昼食まで少し時間があったので、駆け足でグッゲンハイム美術館を廻る。フランク ゲーリーが設計した斬新な建物で有名となった現代美術館だ。ゲーリーのデザインは奇抜すぎる気がするが、現代美術向けの美術館としてはアリかもしれない。建物は巨大だが、収蔵作品は大作が多く、作品数は膨大と言うわけではない。特に1階は、アンディ ウォーホルの連作やリチャード セラの巨大なインスタレーションなど、少数の作家の作品のみ展示している。現代美術が苦手な僕にとっては、理解しがたい作品も多かった。

ビルバオの昼食は、ミシュラン三ツ星であり、各種ガイド ブックでの評価も高いAzurmendiで摂った。ビルバオ市街から高速道路で20分程かかる。こんな場所によくぞレストランを作ったものだ。ここは斬新なプレゼンテイションで有名だ。客は先ず菜園のような別室に通され、そこで突き出しをいくつか供される。

そこからガラス越しに見える厨房は壮観だ。50人の客に対し、従業員は25人だそうだ。テーブルに着く前に、料理人たちが一斉に”Hola!”と挨拶する。立地は低い丘で、窓からは長閑な草原が見える。

メニューはコースのみで、我々は品数の少ない方を選んだが、これでも量は十分だった。この店は、訪れる前は奇抜なだけかもしれないという一抹の危惧を抱いていたが、杞憂だった。全ての皿が、味も極めて高い水準にあった。いくつか出た前菜は、一口大で食べるものの中に液体が入っているものが多い。例えば、凍らせたオリーヴの中にヴェルモットを入れた品は、想像を超えた組み合わせが料理として成立している。

特に気に入った皿は、Natural spider crab, emulsion and infusion。皿の周りに乗っているのは良質の蟹肉。中央のソースは何と蟹味噌の味だ。お見事。

ワインはスペイン産をお任せで数杯選んでもらったが、満足した。二人で€350と、値段はかなり張るが、料理とサーヴィスと店の空間は、それに値する。★★★★★

Azurmendi

https://www.azurmendi.biz/en

ホテルへ戻り、休憩してからビルバオの街を歩く。前日まで居たサンセバスチャンに比べると、ビルバオは産業がより発達しているらしく、街の規模がやや大きい。親密感はサンセバスチャン程ないが、ビルバオは建築が面白く、運河沿いも気持ちが良い。★★★★・

昼食の満腹感が夜も続いていたが、スペイン最後の夜だということで、旧市街に出向き、適当に選んだバルで軽く夕食を摂った。満腹だったこともあり、味は印象に残っていない…

7月30日(土)

スペイン最終日は、フライトが遅めだったので、朝早くタクシーで30分程のGetxoという町のビスカヤを見に行った。ゴンドラでクルマや人を渡す。現代となってはむしろ非効率だが、当時としては最先端の技術だったのだろう。朝10時を過ぎれば、橋の上を歩いて渡ることもできたが、そこまで待てなかったので、タクシーで再びホテルに戻った。

帰りは、ホテルからビルバオ空港まで旅行会社にクルマを手配してもらっていた。マドリッドで飛行機に乗り遅れた失敗を繰り返せないが、旅行会社は空港に2時間前に着くようにクルマを手配していたので、問題はなかった。今回の旅行では、サンセバスチャン行きのマドリッド発のフライトだけ、自分でタクシーを拾ったが、これも旅行会社にクルマを手配してもらっていたら乗り遅れなかっただろう。帰りのフライトは特に問題なし。羽田空港からタクシーで碑文谷の自宅に帰る。