ここ数年、スペインのバスク地方の料理が気になっていた。特に San Sebastian は人口当たりのミシュランの星が一番多い都市だという。今回は主に食が目当ての旅だった。
Madrid 3 泊、San Sebastian 3 泊、Bilbao 1 泊という旅程を組んだ。
行きはいつもの MK タクシーを予約しておいた。碑文谷の自宅から羽田空港まで 45 分
日本からスペインまでの直行便は近いうちに出来るそうだが、現時点では無い。今回は、
行きは羽田発、ミュンヘン経由、マドリッド着、帰りはビルバオ発、フランクフルト経由、
羽田着のルフトハンザを選んだ。ルフトハンザにしたのは、羽田発のビジネスクラスの内、
最も安かったから。フルフラットなので快適だが、機内食は ANA や JAL などの日系キャリ
アに比べて、大きく劣る。行きは和食を選択したのだが、不味かった。帰りは洋食にした
のだが、これは和食よりはマシだった。
マドリッドに到着したのは 22 時近くになってから。その日はもう寝るだけだ。空港までク
ルマで迎えに来てもらったのだが、駐車場で何か問題があったらしく、中々駐車場を出ら
れない。この辺りがスペインか。10 分くらいして別のクルマに変えて、空港を離れた。
マドリッド ホテル
マドリッドのホテルは Urso Hotel & Spa。立地は市街の北の方であり、主な観光地からは
やや離れているが、ホテル自体は素晴らしい。富豪の邸宅を改装したと思われるブティッ
ク ホテルだ。部屋はシックかつシンプル。シャワー ブースが狭いが、欧州のホテルでは
仕方ないか。★★★★★
Urso Hotel & Spa
http://www.hotelurso.com/en/index.html
Mejía Lequerica 8 · Madrid 28004
info@hotelurso.com
マドリッド散策
ホテル近くの地下鉄は長期工事中で使えない。従って、マドリッド滞在中は、徒歩かタク
シーで移動した。ホテルの従業員に聞いたところ、地下鉄の治安は、スリはあるが、身が
危険になるようなことは無いそうだ。結局地下鉄は使わなかったが…
ホテルからソフィア王妃芸術センター(★★★★・)までは徒歩で 30 分程度。
この間は治安も悪くなさそうだし、道は幅広く中央が公園となっており、歩いていて気持ちがいい。ここはピカソやダリやミロが充実しており、ピカソのゲルニカで有名だ。
ソフィア王妃芸術センターから歩いて 10 分程でプラド美術館(★★★・・)。ここはベラス
ケス、ゴヤ、エル グレコが充実している。この 3 人には余り興味は無かったが、ゴヤの「我
が子を喰らうサトゥルノ」には異様な迫力を感じた。
今回の旅行では、サンセバスチャンとビルバオの食事が主な目当てだったが、マドリッド
には期待していなかった。マドリッドのいいレストランの殆どは、日曜日と月曜日が休み
だからだ。プラド美術館を見た後、近くの Huerias 通りでレストランを探す。中々美味し
そうなところが無く、最終的に選んだ店の料理も、不味くはないが印象に残らなかった。
昼食後は、マドリッド市庁舎の 8 階(日本式だと 9 階)の展望台に上る。
高い建物の少ないマドリッドでは、これでも「高層」に属する。眺めは良い(★★★★・)。市庁舎に入る際にも、荷物を X 線で検査していた。
朝は余り感じなかったが、午後になるとかなり暑い。東京の夏並みだ。日差しが強いので、
影も濃い。マドリッドは光と影の街だと感じた。市庁舎から Templo de Debod (★★★・・)
まではタクシーを利用した。これは古代エジプトの神殿で、アスワン ハイ ダムの建設に
伴い、マドリッドへ移設されたものだ。
Templo de Debod から王宮まで歩いたのだが、夕方になっても西日が強く、歩くとかなり疲
れる。王宮(★★★・・)はさすがに巨大かつ壮麗だ。
夕食はバルの多い Plaza San Miguel で摂ることにした。
どの店が良いのか全く見当がつかず、なかなか決められない。最終的に決めた Taste Gallery という店は、タパスのセットや英語のメニューも有り、立ち飲みだけでなく座ることもできた。接客した従業員は、英語の発音から英国人だと直ぐ判ったが、聞いてみたら実際に英国人だった。観光客向けの店かも知れないと危惧したが、味はなかなか良かった。★★★★・
Taste Gallery
Plaza San Miguel 8
http://tastegallery.es/en/
Taste Gallery からホテルまではタクシーを利用。
Toledo
翌日は日帰りで古都 Toledo へ。ホテルからタクシーで Atocha 駅まで行き、そこで高速列
車に乗る。発車時刻になってもプラットフォームも決まらず、事態が理解できず不安にな
ったが、周りのスペイン人達の後を追って何とか凌いだ。結局発車は 20 分遅れ。この辺り
がスペインか。ここでも荷物を X 線で検査するので、乗車に時間が掛かる。テロが殆どな
く、新幹線で荷物検査をしない日本は平和で良い。
トレドでは先ず教会を訪れる(★★★・・)。壮麗なゴシック建築で、中にはエル グレコの
絵が数多くある。
トレドの街(★★★・・)は、道が狭く、小さな建物が密集している。数年前に訪れたトスカーナの町々に雰囲気が似ているが、町からの眺めはトスカーナの方が良かったか。
行き当たりばったりで入ったレストランの昼食は平凡だった。
マドリッドに戻り、ホテルで少し休憩してから買い物に出かけた。歩いてセラーノ通りま で行き、ロエベなどを廻る。
その後、ガイド ブックに載っていた老舗のバルまで行ったが、 なぜか休業していた。歩き疲れていたので、近くのレストランに飛び込んだが、これが正 解だった。現代的なワイン バーといった雰囲気の店だが、料理の水準もかなり高い。
突き 出しのヴィシソワーズは、やや甘めの味だが、この店が旨いと予感させる。
ロブスターの サラダ、春巻き風の揚げ物、イカスミのラビオリなどに満足した。
二人で€120。手頃の料 金も評価し、★★★★★
Ultramarinos Quintin
Calle Jorge Juan, 17, 28001 Madrid
マドリッドではスリに気を付けて、荷物から片時も注意を離さないように努めたが、詐欺師に言い寄られたことがあった。道を歩いている時に、スペイン人カップルが英語で話し かけてきた。翌週日本に行くと言う。しばらく話した後、男の方が、円の為替レートを聞 いてから「日本円を見たことがないんだ。見せてくれないか?」と言った。ここで怪しいと 気付いて話を打ち切ったので、事なきを得た…
サンセバスチャンへ
マドリッドからサンセバスチャンまではイベリア航空の飛行機を使うはずだったが、本旅 行で最大の危機が発生した。日本の国内線の感覚で、11 時の出発 1 時間前にマドリッド空 港に着いたのだが、チェックインの締め切りが出発 1 時間前だったのだ。そうとは知らず に、列に 30 分程並んだあとで、チェックイン カウンターで締め切りを過ぎた旨を伝えら れる。次の飛行機は 20 時発だ。旅行代理店のスペイン支店に電話したところ、バスの利用 を勧められる。市内に戻ってバスを確認すると、13:00 発、19:45 着のバスがあった。料金 は一人€36。かなりの長旅になってしまうが、これしか選択肢は無い(列車も有ったかもし れないが)と思い、このバスにした。このバスも出発が 20 分程遅れ、しかも行先表示板に 書いてあったのとは異なるターミナルから出発した。この辺りがスペインだ。隣のスペイ ン人に状況を教えてもらったので、何とか対応できたが。 マドリッドからサンセバスチャンに近づくにつれて、景色が明らかに変わる。マドリッド 近郊は土地が痩せ、色彩の基調が土色だ。しかし、夏以外は雨の多いサンセバスチャンに 近づくと、木々が増え、景色が緑色になる。同じ国でも随分異なるものだ。 サンセバスチャンでは、ガイド(http://vascubishokuclub.blog76.fc2.com/)にバルと街の 案内を頼んでいた。14:30 開始の予定だったが、遅れる旨を伝え、20:15 開始に変更しても らった。快く変更対応してくれたガイドに感謝。 ガイドには4軒のバルに連れて行ってもらったが、料理は写真を撮らなかったし、店の名 前も2軒しか覚えていない。料理は美味しかったが、4軒も梯子すると最後は腹がきつく なる… 覚えているうちの 1 軒は La Vina。焼いた蛸と、セップ茸の卵とじが美味しい。満腹で食べ られなかったが、チーズケーキも名物だそうだ。★★★★★
La Vina
http://lavinarestaurante.com/en/ Calle del 31 de Agosto, 3 PARTE VIEJA 20003 Donostia
Saint Sebastian hotel
サンセバスチャンで泊まったホテルは Maria Cristina。海には面していないが、旧市街ま
で5分程という位置にあり、大き目な高級感のあるホテルだ。普通の部屋でも広さは十分。
その分、値段も高めだが… ここもシャワーは狭いが、欧州のホテルなので仕方ない。★★
★★★
Hotel Maria Cristina, a Luxury Collection Hotel, San Sebastian
http://www.hotel-mariacristina.com/en
Paseo Republica Argentina, 4, San Sebastian, 20004, Spain
サンセバスチャン二日目の朝は、海のそばの Urgull という小山に登る。そんなにきつくな
く、歩いて30分ほどだ。僕は有難味を感じないが、頂上にはキリスト像も有る。頂上か
ら眺める海は美しい。★★★★・
この日の昼食は市内の Ibai というレストランで摂った。ここは店に直接行かないと予約で
きないが、ガイドに予約してもらっていた。バーの地下という、少し変な立地だ。ここの
料理は、技術的には家庭料理といった感じだが、素材が良い。
ロブスターのサラダは、若干硬めだが、中々のもの。
浅蜊のリゾットは、素朴だが、しみじみとした味わい。二人分だという平目は、驚くほど大きい。これを単純なムニエルで食べる。身を丸ごと食べたが、店員がスペイン語で何かを促している。どうやら周りの縁側の部分も食べろということらしい。もちろん縁側も美味しく頂いた。
★★★★・
Ibai
Getaria Kalea, 15, 20005 San Sebastian - Donostia, Spain
昼食の後は、サンセバスチャンの街を散策する。ここの魅力を言葉にするのは難しい。観
光名所が沢山あるわけではない。しかし、落ち着いた洗練された街並みだ。マドリッドに
比べて涼しいのも良い。
日中でも気温は 20 度台半ば程度だ。食事が美味しいこともあり、今まで旅行した街の中で、最も好きなうちの一つだ。★★★★★
この日の夜は、旧市街のバルを 2 軒回って、ピンチョスをつまんだ。
ホテルでもらったガイド ブックでは、ピンチョス バルを、”Traditional Pintxos”と”Modern Creative Pintxos”の二通りに分類している。1 軒目は”traditional”な La Cepa。ここのピンチョスは全てパンに乗っている。パンと一緒に食べと、それだけで満腹になってしまう。味も余り印象に残らない。
★★★・・
2 軒目は”modern”な Sirimiri。ここのイカスミのコロッケは絶品だ。イベリコ豚のソテーとフォアグラも中々のもの。
★★★★・
Sirimiri Gastroleku
Calle Mayor, 18, 20003 San Sebastián
サンセバスチャン 3 日目も、昼食以外は街やコンチャ湾を歩いて過ごした。1 週間連続して
滞在したら少し飽きてしまうかもしれないが、2 日程度では歩くだけで十分楽しい。
この日の昼食は、市街からタクシーで 15 分程のミシュラン一つ星 Mirador de Ulia で摂っ
た。席に通され、先ずは丘から眺めるコンチャ湾と街の絶景に息を呑む。こんなに景色の
いいレストランは、数少ないのではないか。ここで景色を楽しむのなら、昼食が良い。無
言で窓の外を眺め続ける。
ここはアラカルトと Menu Degustation の二種類がある。こういう場合、僕はアラカルトを
頼むことが多いのだが、ここでは Menu Degustation にした。皿数が多いこともあり、全て
の皿が強烈な印象を残したわけではないが、全体的に極めて水準が高い。特に気に入った
のがトマト。トマトの中に何か(パプリカ?)が詰まっている、甘みと酸味が見事なバランス
を保っている。
ワインはお任せでスペインのワインを何杯かグラスで出してもらった。銘柄は控えていないが、とても良かった。ここの食事は長く記憶に残るだろう。二人で約€230。
★★★★★
Mirador de Ulia
http://www.miradordeulia.es/en/
Paseo de Ulía, 193, 20013 - San Sebastián
この日の夜は昼食の満腹感が続いていたが、思い出に無理に 1 軒だけバルに寄った。初日
にガイドに連れて行ってもらった Antonio だ。ガイドは客層が良いと言っていたが、そん
な感じだ。雰囲気もどちらかと言うと現代風か。ここの蛸のマリネは素晴らしかった。僕
は弾力のある蛸を触感を好むが、ここの蛸はかなり柔らかい。通常の好みとは異なるが、
それでもとても気に入った。隣の客が食べていたコロッケみたいなもの(中は魚のすり身だ
った)を指さして頼んだが、これも良かった。★★★★★
Antonio Bar
http://www.antoniobar.com/
ビルバオへ
Maria Cristina をチェックアウトし、バスで 1 時間半ほどかけてビルバオへ向かう。一人€12.51。今回は問題は特になし。
ビルバオのホテルは NH Collection Villa de Bilbao。高級感はないが、機能的で部屋の広
さも問題ない。旧市街までは歩いて 30 分程かかるので、観光に便利な立地ではない。★★
★★・
NH Collection Villa de Bilbao
http://www.nh-collection.com/hotel/nh-collection-villa-de-bilbao
Gran Vía, 87. 48011, Bilbao, Spain
昼食まで少し時間があったので、駆け足でグッゲンハイム美術館を廻る。フランク ゲーリ
ーが設計した斬新な建物で有名となった現代美術館だ。ゲーリーのデザインは奇抜すぎる
気がするが、現代美術向けの美術館としてはアリかもしれない。
建物は巨大だが、収蔵作品は大作が多く、作品数は膨大と言うわけではない。特に 1 階は、アンディ ウォーホルの連作やリチャード セラの巨大なインスタレーションなど、少数の作家の作品のみ展示している。現代美術が苦手な僕にとっては、理解しがたい作品も多かった。
ビルバオの昼食は、ミシュラン三ツ星であり、各種ガイド ブックでの評価も高い Azurmendiで摂った。ビルバオ市街から高速道路で 20 分程かかる。こんな場所によくぞレストランを作ったものだ。ここは斬新なプレゼンテイションで有名だ。客は先ず菜園のような別室に通され、そこで突き出しをいくつか供される。そこからガラス越しに見える厨房は壮観だ。
50 人の客に対し、従業員は 25 人だそうだ。テーブルに着く前に、料理人たちが一斉
に”Hola!”と挨拶する。立地は低い丘で、窓からは長閑な草原が見える。
メニューはコースのみで、我々は品数の少ない方を選んだが、これでも量は十分だった。
この店は、訪れる前は奇抜なだけかもしれないという一抹の危惧を抱いていたが、杞憂だ
った。全ての皿が、味も極めて高い水準にあった。いくつか出た前菜は、一口大で食べる
ものの中に液体が入っているものが多い。例えば、凍らせたオリーヴの中にヴェルモット
を入れた品は、想像を超えた組み合わせが料理として成立している。特に気に入った皿は、
Natural spider crab, emulsion and infusion。皿の周りに乗っているのは良質の蟹肉。
中央のソースは何と蟹味噌の味だ。お見事。ワインはスペイン産をお任せで数杯選んでも
らったが、満足した。
二人で€350 と、値段はかなり張るが、料理とサーヴィスと店の空間は、それに値する。★★★★★
Azurmendi
https://www.azurmendi.biz/en
ホテルへ戻り、休憩してからビルバオの街を歩く。前日まで居たサンセバスチャンに比べ
ると、ビルバオは産業がより発達しているらしく、街の規模がやや大きい。親密感はサン
セバスチャン程ないが、ビルバオは建築が面白く、運河沿いも気持ちが良い。★★★★・
昼食の満腹感が夜も続いていたが、スペイン最後の夜だということで、旧市街に出向き、
適当に選んだバルで軽く夕食を摂った。満腹だったこともあり、味は印象に残っていない
…
スペイン最終日は、フライトが遅めだったので、朝早くタクシーで 30 分程の Getxo という町のビスカヤ橋を見に行った。ゴンドラでクルマや人を渡す。現代となってはむしろ非効率だが、当時としては最先端の技術だったのだろう。朝 10 時を過ぎれば、橋の上を歩いて渡ることもできたが、そこまで待てなかったので、タクシーで再びホテルに戻った。
帰りは、ホテルからビルバオ空港まで旅行会社にクルマを手配してもらっていた。マドリッドで飛行機に乗り遅れた失敗を繰り返せないが、旅行会社は空港に 2 時間前に着くようにクルマを手配していたので、問題はなかった。今回の旅行では、サンセバスチャン行きのマドリッド発のフライトだけ、自分でタクシーを拾ったが、これも旅行会社にクルマを手配してもらっていたら乗り遅れなかっただろう。帰りのフライトは特に問題なし。羽田空港からタクシーで碑文谷の自宅に帰る。