伊香保-軽井沢 旅行

去年(2005年)の大型連休に香川県讃岐うどんを堪能して以来、有名な群馬県水沢うどんも試してみたいという気持ちを抱いていた。ここで問題なのは、水沢および隣の伊香保の辺りは観光地としての魅力が薄いということだ。そこで、伊香保に1泊だけして、初日と2日目の昼にうどんを食べ、2泊目は少し離れた軽井沢に泊まるという旅程にした。今年は仕事の都合上、夏休みをあまり取れないので、この程度で我慢することにしよう。

今回の旅行では、水沢うどんを食べる、という主題を先ず設定して、それから泊まるところを決めたのだが、昼に複数回水沢うどんを食べようとすると、宿泊地の選択肢は隣の伊香保しかない。伊香保温泉旅館協同組合が運営しているらしきWebサイトを見つけたので、そこに載っている旅館やホテルから候補を選ぼうとしたのだが、たちまち暗澹たる気持ちになってしまった。

一言で言えば、伊香保は、熱海みたいに古い感覚の温泉街だ。大部分の旅館の食事は、品数だけ多くて質が低そうに見える。なんでそう見えるかというと、客の手元で固形燃料に火をつけて台の上で調理する焼き物(これを何と呼ぶのだろう?)が写っているからだ。今までの経験では、このような旅館では、作り置きの料理が一度に全皿運ばれて来、当然味も良くない。更に伊香保では、少なからぬ旅館が、数十人収容できる大宴会場を売り物にしている、という時代錯誤振りだ。このような旅館を排除していくと、数十軒ある旅館がわずか5-6軒に絞られてしまう。そこから先の選択が難しいのだが、エイヤで「お宿 玉樹(たまき)」に決めた。

さて、その「お宿 玉樹」(★★★・・)だが、Webサイトを見たときには小さな旅館だと想像していたのだが、実際には5階建てという大きなものだった。ただし、入り口にある小さな庭はいい感じだ。部屋は、旅館としては可もなく不可もなくといったところ。直ぐ隣に民家が何軒かあり、眺めは良くない。

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料理もWebサイトから想像していたのとは若干異なり、例の固形燃料に火をつけて台の上で調理する牛肉も供された。この種の料理にしては味は悪くはなく、最初に供された数品以外は一応その場で調理している(作り置きでなく)みたいだった。フカひれ入りの茶碗蒸しや鮎の焼き物は割りと良かったが、全般的には記憶に残るほどでもない。締めとして、ご飯だけでなく、うどんも供されたのには、ちょっと驚き。水沢から仕入れているといううどんは、中々美味しい。また、山椒を塗したご飯はかなり良かった。

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水沢にはうどん屋街がある。今回の旅行では、昼に2回、そして旅館の夕食の一部として、合計3食のうどんを食べた。

初日の昼は老舗の大澤屋で。

店舗が二つあり、そのうちのどちらかに入った。かなりの大店で、建物の内部はまるで観光地の大きな土産物屋にある団体客向け食堂みたいな殺風景な感じ。大型の配膳台も客席から丸見え。嫌な予感。名物の舞茸の天麩羅付きざるうどんを注文する。

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うどんは可もなく不可もなく。不味くはないが、この程度だったらどこでも食べられるのでは。舞茸の天麩羅は、大振りなものが二つ。油が余り良くないみたいで、胃にもたれる感じがする。

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お手洗いが汚いのは大きな減点要因。わざわざ東京から食べに来る価値は無い。

★★・・・

2日目の昼は、これまた老舗の田丸屋で。

ここも老舗(創業1582年)かつ大店だが、大澤屋と違って風情がある。建物は近年改築したみたいで、かなり綺麗だ。

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昨晩夕食を食べ過ぎて、まだ胃がもたれる感じがするので、ざるうどんのみを頼む。たれは醤油だれと胡麻だれの2種類を選択できるが、試しに胡麻だれを選んでみた。

麺は、讃岐うどんほどではないが、ある程度腰があり、喉越しも良い。胡麻だれは味が若干濃過ぎる。醤油だれにすれば良かった。全体的には満足できたので、自宅用に土産の麺も買い求めた。

★★★★・

うどん屋2軒と旅館の夕食の3食だけだとサンプル数が若干少ないかも知れないが、讃岐うどんの素晴らしい腰に比べると、水沢うどんは若干及ばないという気がする。また、うどん屋街の店は、今回訪れた2軒以外の大部分も、どちらかというと大店で、香川県うどん屋より観光客を意識した営業をしているのだろう。

東京の人間にとって水沢の優位点は、東京から3時間程度で来られるということだが、この辺りはうどん以外の魅力がほとんど無い。また、肝心のうどんも、それだけの為にわざわざ3時間かけて来る程の魅力があるかというと、微妙なところだ。水沢の近辺(例えば軽井沢)に来たついでに日帰りで寄る、といった程度で良いだろう。

田丸屋でうどんを食べた後は、軽井沢までドライブ。運転を楽しむため、わざわざ草津や万座を経由する遠回りの道を選択する。

草津から万座までの志賀草津道路(★★★★★)は、広大な視界と溶岩の無骨な光景に息を呑む。ダイナミックなワインディングで交通量も少ない。草津から万座を経て嬬恋プリンス ホテルで休憩をするまでの間、前方にクルマが2台しかおらず、その両方とも道を譲ってくれたので、生涯で1-2位を争う至福のドライブを楽しめた。草津に行くまでは小雨が降る場面もあったが、志賀草津道路の辺りでは雨も止み、屋根を開けることができた。

この道に限らず、群馬のドライバーは僕のクルマが後ろに付けると素直に道を譲ってくれる人が多く、快適に飛ばせる。

軽井沢の宿泊は「ジェネラス軽井沢」という不思議な名前のホテルで。最近流行の「軽井沢ウェディング」を売り物にしたホテルみたいで、敷地内に礼拝堂が併設されており、翌日には4組ものカップルが式を挙げていた。

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チューダー様式風の概観は可愛らしい。広くは無いが芝生の庭もある。部屋は可もなく不可もなくだが、浴室が狭いのが惜しい。

★★★・・

夕食はホテルでなく近く(ホテルからクルマで10分ほど)のフランス料理店エルミタージュ ドゥ タムラで。料理は3種類のコースのみで、予約の際に選択を迫られるという、僕の嫌いな流儀。別荘地に佇む戸建ての建物は、全面ガラス張りで、昼ならば客席から周りの木々が見えるだろう。

真ん中の料金(12,000円/人)のメニューは以下のとおり。

アミューズ

*鮑と茄子のコンソメ ジュレ、雲丹とオニオンのパウダーを添えて

*鱧と冬瓜の冷製、ライムの香り

*鮎のバートフィロ巻きと加賀太キュウリのスパゲッティ

*桃の冷製スープ

*岩ガキのムニエル、フヌイユのエスプーマとバルサミコ酢のソース

*今朝、山口・荻から届いた鮮魚

*生ハムを巻いた仔牛のウェリントン風、季節の野菜添え

*本日のデザート

「鮑と茄子のコンソメ ジュレ」の鮑は、柔らかくかつ弾力があるという、矛盾した食感を両立した素晴らしいもの。冷たいジュレの味も上品で、食欲が高まる。

鱧は、冷製にしたせいか食感が若干ベタッとした感じで、本日の皿の中で唯一感心しなかった。

「鮎のバートフィロ巻き」は苦味のある稚鮎の揚げ方が見事。付け合せのキュウリは、苦手なので無しにしてもらった。

「桃の冷製スープ」は、くり抜いた桃の中に入っている。桃の甘みは控えめで、食事の口直しとしても違和感は無い。

「岩ガキのムニエル」は、フヌイユ(ハーブの一種)を泡状にしたソースとの愛称が絶妙。

本日の鮮魚はイサキのグリエ。皮はややパリパリとした感じで、身は十分に火を通しつつも瑞々しさを失わない完璧な火入れ。

仔牛は微かに野趣を感じさせる風味だが、それが嫌味にならず、力強い味わいをもたらしている。

全体を通じて、付け合せの野菜が素晴らしい。地元軽井沢の野菜を使っているのかと思いきや、マダムに訊くと、それ以外に京都などからも取り寄せているそうだ。凝縮されたような濃い味わいが印象に残る。

’03 Vosgne Romane (1/2)は、最初は渋みが強く硬い味わいだったが、しばらく空気に触れると、円やかかつ力強い味わいに変わり、満足した。

デセールのソルベはやや平凡だが、エスプレッソは極めて秀逸な味だった。

二人で37,000円強と、頻繁に通える値段ではないが、3時間かけて東京から行きたくなるような素晴らしい料理だった。

★★★★★

最終日7月29日(土)の午前中は先ずセゾン美術館へ。小さな建物で、つまらない作品も多いが、アンディ ウォーホルの毛沢東シリーズがあり、これは楽しめた。

昼からは旧軽井沢を散策する。ミカド コーヒーモカ ソフトクリームを食べる。腹が余り空いていなかったので、昼食は「腸詰屋」というソーセージ店(軽井沢に数軒ある)で、ソーセージのサンドウィッチのみとした。このソーセージが非常に旨く、自宅の土産に何本か買い求めた。

食後は茜屋珈琲店でお茶をする。最後にここに来たのは10年以上前だろうか。グレイプ ジュースの旨さは相変わらずで、これも自宅用に買い求めた。コーヒーも良い。

さて、7月半ばから8月半ばまで、「軽井沢の森 2006 音楽祭&アート祭り」と銘打って、ほぼ毎日クラシカル音楽の公演が大賀ホール(ソニーの大賀さんの寄贈で立てられたホール)で開かれている。外国から来日した楽器奏者が日本人の伴奏ピアニストと小品を演奏するというスタイルだ。昨晩夕食をとったエルミタージュ ドゥ タムラのマダムから入場券を貰ったので、聴いてみることにした。財政的な仕組みがどうなっているか知らないが、ブローシャにはスポンサー企業が列挙されていたので、多くの人が無料で聴けるのだろう。

本日はペーター シュミードルというウィーン フィルハーモニー管弦楽団クラリネット首席奏者と、後藤泉というピアニストの組み合わせ。クラリネットのソロ演奏を聴くのは初めだが、温かみのある円やかな音に和んだ。

この後で自宅へ戻る。