リリイ・シュシュのすべて

岩井俊二リリイ・シュシュのすべて(2001)

「社会に出て」から何年も経つ僕は、思春期の心の揺れを表現した映画を見ても、何の感慨も持たないどころか、単に気恥ずかしく感じるだけのことが多い。あろうことか、そんな僕が「リリイ・シュシュのすべて」には深く引き込まれてしまった。

過剰な自意識、孤独、いじめ、非行、売春など、暗い題材が数多く扱われている。しかし、本作を社会派作品と呼ぶ気はしない。本作はまるで芸術的なミージック ヴィデオだ。映像に音楽が良く合っているというより、架空の歌手リリイ・シュシュドビュッシーの音楽に合わせて映像を撮っているように思えてしまう。

田んぼの中で少年が一人ヘッドフォンで音楽に聞き入る冒頭。電子音に乗せて歌われる言語不明で浮遊感の有る女性ヴォーカル。出色の導入部だ。音楽が無く台詞だけの部分には、若干平凡なところも有る。しかし、美しい部分も、手持ちカメラでわざと荒く撮った部分も含めて、映像も見事なものだ。

前述したように、僕にとって本作はミュージック ヴィデオのようなものなので、146分は若干長すぎる気がする。また、社会派作品を好む人は、本作が深刻な題材をスタイリッシュに消費し過ぎると感じるかもしれない。しかし、これ程印象に残る作品は、沢山有るものではない。

★★★★★

(WOWOWで録画)