四国と京都

ゴールデン ウィークは、5月2日(月)から7日(土)までの6日間かけて、四国へ行ってきた。行きは神戸で1泊し、次いで高松で2泊、徳島県の阿南で1泊し、最後に京都で1泊した。東京目黒の自宅からクルマを使ったため、合計で2,000km近く走ったことになる。こんなに走ったのは初めてだ。

初日に自宅を出発したのが8:30頃だが、高速が空いていたため、神戸に到着したのは16:00頃だった。北野の異人館通り付近を散策する。

たまたま入った紅茶販売店バスク”で英国H.R. Higginsの紅茶を買う。僕も知らなかったのだが、H.R. Higginsはエリザベス2世の御用達だそうだ。店主の男性は話好きな人で、仕事の関係で90年代後半にロンドンに駐在した際にH.R. Higginsを知り、その後脱サラして、H.R. Higginsの日本における代理店となったそうだ。僕がロンドンに駐在していたのは90年代前半なので、時期は重なっていない。店主の奥様がわざわざ紅茶を淹れてくれ(美味しかった)、しばし、ロンドンの思い出話に花が咲いた。

神戸の夕食は、三宮のステーキ店「みやす」で。駐車場の建物の2階というヘンな立地。店内は、時の流れが止まった昔ながらの洋食屋といった雰囲気。

しかし、ここの「ヘレ」ステーキは見事。肉質、焼き加減(ミディアム レア)とも申し分ない。炭火で焼いているらしく、ほんのりと香ばしいのが、また良い。

赤ワインをグラスで頼んだのだが、このワインが軽すぎ、肉に合っていないのが、残念。

「ヘレ」ステーキ200g×2人とグラス ワイン2杯で19,000円。ステーキは★★★★★

兵庫県神戸市中央区下山手通3-2-19

078-391-3088

食後は近くのケーキ店「フーケ」(パリのLe Fouquet’sとは無関係)でケーキ(チーズ スフレの生地にベリー系のソースが載ったもの)を食べる。とても有名な店らしいが、大したことはない。コーヒーが非常に薄く、まるでアメリカン コーヒーみたいだったのには、がっかり。★★・・・

翌5月3日(火)は、神戸から高速道路を使い香川県へ。うどんのことは後で纏めて書くが、それ以外の最初の目的は、香川県牟礼(むれ)にあるイサム ノグチ庭園美術館だ。

ここは、世界的な彫刻家である故イサム ノグチのアトリエと住居だったところ。ノグチはニュー ヨークなどにも家を持っており、年に数ヶ月間、牟礼のこのアトリエで制作を行なったそうだ。この辺りは石の名産地らしく、近くには石工所が沢山有る。

アトリエは、彫刻の道具などを収めている土蔵と、屋外の制作場所(ノグチは基本的に屋外で彫刻を制作したそうだ)と、完成品が何点か収められている展示蔵から成る。

ノグチは複数の作品を同時進行で制作したそうで、屋外の制作場所には未完成品が何点も置いてある。未完成品とは言っても、単なる石から完成品に近いものまで様々で、制作の過程を想像しながら見るのが楽しい。

展示蔵の建物は酒蔵を移築したもので、中に展示する作品はノグチ自身が選定したそうだ。作品からは強い生命力が感じられ、その場全体に凛とした雰囲気がただよっている。

住居は豪商の屋敷を移築したもので、中には入れず、外から中を覗く。囲炉裏だったと思しき場所にノグチの作品が置いてあり、内装は簡素ながら、ここにも凛とした雰囲気が漂う。住居の裏手にある小高い丘からの屋島の眺めも中々良い。f:id:himon-ya:20190324190139j:plain見学は予約制。★★★★・

イサム ノグチ庭園美術館の後は、高松市栗林(りつりん)公園へ。広大な池泉回遊式庭園。元々、高松藩主、松平家のものだったそうだ。

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★★★★・

3日目の5月4日(水)は、高松港からフェリーで直島という島へ。所要時間50分。直島は「ベネッセ」がスポンサーとなった現代美術で有名。

先ずは「家プロジェクト」の家を何軒か見る。「家プロジェクト」は、現代美術家が建築家と組んで、古い家などを芸術作品として再生したもの。

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「角屋」(かどや)は宮島達夫の作品。家の中は薄暗く、以前畳の間だったと思しきところに水を張っている。水の底には、いくつもの数字の発光体が置かれており、不思議な静謐な雰囲気が漂う。

★★★★・

「南寺」(みなみでら)はJames Turrellの作品。蔵と思しき建物を再生している。係員に誘導されて少人数ずつ中に入り、ベンチに腰掛ける。室内は完全な闇(のように最初は思える)。真っ暗な中にじっとしていると、だんだん不安になってくる。数分たって目が慣れると、実は完全な闇ではなく、数メートル前方の壁がほのかに光っていることがわかり、その光る壁に向かって歩いてゆく。ただそれだけなのだが、まるで生まれて初めて光を見るような不思議な感動を覚える。★★★★★

 護王神社(ごおうじんじゃ)は、小さな神社を杉本博司が再生したもの。拝殿のところに掛かっている木の階段をガラスに変えているが、「だからどうした?」という気もする。その近くに穴倉があり、地中に続いている階段を見られる。穴倉から出たところが絶壁となっており、眼下の海の景色が中々良い。

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★★・・・

「家プロジェクト」の後は、ベネッセハウスの美術館へ。僕が嫌いなキッチュな現代美術(例えば、ウルトラマンの人形をいくつも並べたもの)が多い。★★・・・

 ベネッセハウスの周囲は美しい砂浜の海岸で、ここにも現代美術の作品がいくつか展示されている。

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草間彌生の「南瓜」は愛らしい作品。

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でも、他の作品の中には、美しい海岸にあえて置くのが疑問なものもある。

 丘の上にある地中美術館は安東忠雄の設計。James Turrell、Walter De Maria、クロード モネというたった3人の作品のみを収める。美術館の建物は、景観を壊さないように、文字通り地中に埋め込まれている。そして、展示室には人工の照明を使わず、ガラス窓を通じて引き込んだ外光のみで作品を見せる。いつもながら、安東忠雄の発想は凄い。

 

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James Turrellの作品は、全体がほのかに青く光る部屋。幻想的な浮遊感がある。Walter De Mariaの作品は、巨大な花崗岩の球。ひんやりとした質感が、清々しい気分にさせてくれる。クロード モネは、あの「睡蓮」のモネ。ここでは、「睡蓮」の連作を何点か展示している。他の二人が現代美術家なのに、モネだけ何故か印象派なのがヘンな気もするが、作品が中々良いので気にはしない。屋外から眼下に眺める海は絶景。 地中美術館は、場所、建物、作品の三つとも素晴らしい。★★★★★ 

香川県を訪れた目的の一つが讃岐うどんだが、期待と共に一抹の不安もあった。と言うのは、「恐るべきさぬきうどん」の著者集団である「麺通団」がプロデュースした、東京新宿の「東京麺通団」のうどんが飛びぬけて美味しいと思わなかったからだ。もし本場の讃岐うどんの水準が「東京麺通団」程度だったら、どうしよう...

香川県で最初に訪れたのが屋島うどん本陣山田家。イサム ノグチ庭園美術館の近くだ。旧家を転用した立派な門構えのうどん屋で、30分近く待って、漸く席に付けた。

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「ざるぶっかけ」は、冷たいうどんに汁をかけたもの。麺のコシも汁の味も、とても良い。汁は、恐らく昆布や鰹からとった出汁に、醤油を入れたもの。醤油系の味は好みが分かれるだろうが、醤油の香りがいいので、僕はこの汁を気に入った。麺は★★★★・、汁は★★★★★

高松での1泊目の夕食は、「おか泉(おかせん)」。「恐るべきさぬきうどん」などで非常に評価の高い店だ。高松市から高速に乗って約40分の宇多津町にある。長蛇の列ができており、席に付くのに30分程度かかった。生しょうゆ(冷)(429円)と天麩羅盛り合わせ(609円)を頼んだが、うどんを一口食べてみて、不味いと感じた。まさかと思い、更に食べてみる。暫く食べてみてわかったのだが、麺のコシは素晴らしい。単に硬いのではなく、柔らかいのに弾力がある複雑な歯応えだ。讃岐うどんのコシを評して、「グミ キャンディのような」という形容をする人がいるが、突飛な表現だが気持ちは良くわかる。僕が「不味い」と感じた原因は、麺の温度だ。釜あげでもなく冷やでもない中途半端な温度だ。その時は、「もしかしたら、讃岐うどんというのは、こういうものかも知れない」と思ったのだが、よくよく考えてみると、その日の昼に食べた山田家でも翌日に食べた讃岐家でも、冷やはもう少し冷たかった。僕が「おか泉」で食べた麺は、恐らく釜あげを水で締める際の締め方が若干足りなかったのだろう。非常に混んでいるので、たまにはこういうことがあるのかも知れない。コシは見事なので、これで温度がもう少し低ければ、素晴らしい麺になったと思うと、残念。天麩羅盛り合わせは、天麩羅専門店と比べるようなものでは無いが、うどん屋でかつ609円という価格を考えると、かなり良い。

高松での2日目は直島に行ったので、昼はうどんを食べられなかった。夜は、これまた「恐るべきさぬきうどん」の評価が高い、高松市の中心街にある讃岐家へ。この店は、家族経営らしい。何の変哲も無い店構えだが、名物の「なめこおろしうどん」は素晴らしい。柔らかさの中に弾力がある、複雑な歯応えのコシ。讃岐うどんの真髄に触れたような気がした。出汁は鰹節を基にしていると思われるが、店の女将に味付けを訊いても、企業秘密らしく、言葉を濁して教えてくれなかった。やや甘めの味付けのため、人によって好みは分かれるだろうが、僕は気に入った。上に乗ったカイワレ大根の苦味との相性も良い。★★★★★

Tel. 087-835-1795 高松市瓦町1-11-15

讃岐家で夕食を済ませた後、普段小食の妻が珍しく「まだ行ける」と言ったので、ホテルで2時間くらい食休みしてから、もう一軒、高松市の中心街にある「元祖五右衛門」に挑戦した。恐らく系列店だろうが、近くに「うどん家五右衛門」という店も有る。五右衛門の名物はカレーうどんらしい。カレーうどんは邪道だと思っていたが、「恐るべきさぬきうどん」で絶賛していたので、試してみた。カレーうどんと「あさりうどん」の二品を頼み、僕と妻で分け合う。麺のコシは中々良い。その前の讃岐家に比べたら平凡に感じるが、東京の基準からするとかなりいい方だ。期待と不安が入り混じりながら食べたカレーうどんは、余り美味しいと感じなかった。円やかなカレーだが、それでも、うどんと合わせるには味が強すぎると思う。あさりうどんは、あっさりした味わいで悪くない。★★★・・

tel. 087-821-2755 高松市古馬場町1-13

高松から大歩危へ向かう日の朝食は、「中村」のうどんにした。高松市から高速に乗って30分ほど。ここは、客が自ら裏の畑で葱を抜いて刻むことで有名になった店だ。朝9時の開店と同時に訪れたのだが、既に長蛇の列ができており、うどんにありつくまで30分程度かかった。うどん屋自体は粗末な小屋(失礼!)だが、隣の中村さんの家は小奇麗で、恐らくブームのおかげで立てられた「うどん御殿」なのだろう。客が自ら葱を刻むというのは、恐らく客数が少なかった時代のことで、我々が訪れた際には葱はちゃんと予め刻んであった。

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この店は名店として名高いが、客が自ら裏の畑で葱を抜いて刻むという逸話が余りに強烈なために神格化されてしまったのだと思う。うどんも汁も、一言で言って素朴な味。強い印象は残さないが、飽きずに時々食べたくなるような味だ。★★★・・

Tel. 0877-98-4819 綾歌郡飯山町西坂元1373-3

香川県で訪れた計5軒のうどん屋全てがとても良かったわけではないが、それでも世間で讃岐うどんがもてはやされている理由がわかったような気がする。特に讃岐家の麺のコシは、今まで食べたいかなる食べ物とも異なるものだった。山田家の麺をお土産で買って家で食べてみたが、店で食べるのに比べると味わいが劣ってしまう。やはり、美味しい讃岐うどんを食べるには、香川県まで行くしかないのだろうか。東京から香川県は遠い。悩ましい...

 4日目の5月5日(木)は、朝、「中村」でうどんを食べた後で、徳島県祖谷渓(いやけい)へ。先ずは「かずら橋」という、シラクチカズラの蔓を編んで造った橋を見る。渡ると、ゆらゆら揺れて怖い。

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★★★・・

昼からは、大歩危(おおぼけ)でラフティングを楽しむ。ゴム ボートで吉野川を下る。流れの速い瀬を漕ぐときはスリリング。一方、流れの緩やかな「トロ場」では、周りの景色を眺めながら穏やかな気分になれる。浮力の有るライフ ジャケットの助けを借りて、自ら川に飛び込み、流れに身を任せるのも一興。自然を満喫できる楽しい遊びだ。★★★★★

大歩危でラフティングを楽しんだ後は、徳島県阿南市活珍亭(かっちんてい)という、魚介類が美味しい旅館へ向かう。ここは、一日に二組の客に限定している。室内は豪華ではないが、適度な華やかさと落ち着きのあるいい感じ。

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夕食は3種類のコースから選択する。我々は中間の値段のコースを選択した。向付は、梅肉をかけた鱧、煮こごり、ちまきなど。刺身は、近海で取れた鱧、鯛、ぐえ(めじな)、かんぱち。汁は鱧の白子。椀は蒸した鯛にとろみを付けた餡をかけたもの。その後で、蛸壺に入った生きた蛸をその場で捌く。蛸は、刺身と、焼き物と、最期の蛸飯の3種類のやり方で供する。更に、鮑、サザエ、アサリをその場で焼く。

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 刺身や蛸の引き締まった食感、鮑の柔らかさなど、どの魚介も質が素晴らしい。鮑、サザエ、アサリは単に焼いただけだが、素材の良さゆえに極めて美味しい。汁や椀の味付けの技術も大したもの。

翌日の朝食では焼いた鹿が出たが、柔らかく、微かな野趣はあるが臭くない、とてもいいものだった。

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風呂は平凡なので、風呂を重視する人には向かない。また、周りは田んぼだけで、観光するところは無い。しかし、魚介類の料理を堪能するには最適な宿だ。部屋は★★★★・。料理は★★★★★。1泊と2名分の料理で、5万円弱。

5日目の5月6日(金)は、阿南を出て、鳴門を経由して京都へ向かった。

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鳴門では、亀浦観光港から出る水中観潮船「アクアエディ」で渦潮を観る。運良く潮が強い時刻に当たり、迫力満点だった。★★★★・

「アクアエディ」は船底がガラス張りになっており、海中の渦潮が観られることがウリだが、海中の様子を観ても余り迫力は無い。ほとんどの客が、甲板に上がっていた。

次いで京都に入る前に、宇治平等院へ。有名な鳳凰堂は、塗装の色がかなり剥げており、うらぶれた感じがする。池に写る華麗な姿を想像していたが、期待はずれ。

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★・・・・

京都での夕食は、高台寺(こうだいじ)の和久傳(わくでん)でいただいた。通された部屋は、六畳ほどで寂を感じさせる簡素な造りの部屋。掘りごたつ式になっている。

最初に出てきたのは、餡かけの卵豆腐。次いで、ウニと鮑の入ったちまき。刺身はぐじ。椀は鱧のしんじょうに葉山椒を乗せたもの。上品だがしっかりした出汁に、葉山椒の微かな辛味がアクセントを添えている。

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この店の特徴の一つが、焼き物。板前が部屋に入ってきて、その場で炭を使って焼いてくれる。

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鯛の白子を初めて食べたが、ぷりっとした食感が良い。

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次いで、牛肉のしゃぶしゃぶもその場で調理する。僕はしゃぶしゃぶが余り好きでないが、ここのしゃぶしゃぶは、出汁が良く、添えられた花山椒の辛味のアクセントもあり、美味しくいただけた。

この店のもう一つの特徴がご飯もの。5種類から好きなだけ選べる。面白いシステムだが、それまでの料理の分量が少ないのを埋め合わせするためかも。僕は、鯖寿司と鱧の卵とじ丼と青海苔の雑炊を頼んだ。鯖寿司は、通常のものと異なり、締めすぎていないのが良い。

全般的に後々まで印象に残るような強いインパクトは無いが、食材や出汁の質は高いものだった。竹筒に入れた特製の酒も美味しい。★★★★・

TEL 075-533-3100 住所 京都府京都市東山区高台寺北門前通下河原東入鷲尾町512