若冲と江戸絵画展

上野の国立博物館で開かれている江戸時代の絵画の展覧会を観にいった。米国のジョー プライスという人のコレクションで、目玉は伊藤若沖の作品だ。

若沖の彩色画は、鳥や花木を徹底的に細部まで描き込んでいるが、にも関わらずシュルリアルな感じがする。この理由の一つは、そこで用いられている極色彩のコントラストが現実より強いからだろう。また恐らくもう一つの理由として、鳥などの姿勢が、一見自然でありながらも、実は「自然さ」より見た目の印象の強さを優先している(その意味では完全に自然ではない)からだろう。結果として若沖の彩色画は、リアルっぽいがシュルリアルという不思議な感触を湛えている。

若沖の作品を生で見るのは初めてだ。彩色画は事前の想像通りだったが、白黒の水墨画は「極彩色の画家」という若沖への先入観とかなり異なるものだった。細部まで描きこまれた彩色画と異なり、鶴を描いた水墨画は、余白が多く、描写がかなり単純化されている。また輪郭線も、一筆で一気に描いたと思わせる筆致だ。それでも鶴の群れに躍動感があるのは、素晴らしい観察眼と完璧な技巧の賜物なのだろう。彩色画と水墨画とで全く異なる画風ながらも、共に高い水準の作品を生んだとは、恐るべき才能だ。

有名な伊藤若沖以外にも、同様の画風の画家の作品もあり、その中では長沢芦雪のシュルリアルな感じが気に入った。

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