フェデラー、U.S.オープン5連覇

嬉しい驚きだ。ロジャー フェデラーがU.S.オープン5連覇の偉業を成し遂げた。

大会前は余り期待していなかった。ウィンブルドン決勝での敗北後、北京オリンピックを含む数大会に渡ってフェデラーは早いラウンドで負け続けていた。気持ちの張りを失った(かのように見える)状態でフェデラーが優勝するとは思わなかった。それどころか、ビョルン ボルグがジョン マッケンローに1位の座を奪われた後、急速にモティベーションを失って弱冠26歳で引退してしまったことを想起し、同じ事態がフェデラーにも起きるのではないかとすら案じていた。

蓋を開けてみれば僕の懸念は杞憂だった。準決勝、決勝とも、フェデラーのプレイは極めて充実していた。ウィンブルドンでのショックを乗り越えてここまで立ち直ってきたのは、見事な精神力だ。決勝後のインタビューでは、現在13個のグランドスラム タイトルを更に増やしたいと意欲的に語っていたフェデラー。まだまだ終わっていない。今後数年間、トップの地位を争う姿を見せてくれそうだ。

準優勝したアンディー マレイのプレイは初めて見た。1987年生まれなので、ラファエル ナダルより1歳年下、ノヴァク ジョコヴィッチと同年齢ということになる。8月に大きな大会(シンシナティ)で優勝しており、本大会でも準決勝でナダルを破るなど、遅咲きの花が咲きつつあるのかもしれない。ランクも4位まで上がり、見た目も格好いいので、この調子を保てれば人気が出そうだ。

絶好調のナダルが準決勝で敗退したのは驚きだ。世の中には、若干の軽蔑を込めて『クレイ コート スペシャリスト』と呼ばれる類の選手がいる。ウィンブルドンでも優勝1回、準優勝2回と見事な成績を残しているナダルが『クレイ コート スペシャリスト』の訳はないが、U.S.オープンと全豪オープンでは未だに決勝にも出られない。何故なんだろう、理解できない。

フェデラーとジョコヴィッチの準決勝は、去年の決勝を思い起こさせる、既視感の強い試合だった。ジョコヴィッチはフェデラーと互角に戦いながらも、重要な場面でダブル フォールトを犯したり詰まらないミスをするなどして、自滅してしまった。ジョコヴィッチは今年始めの全豪オープンフェデラーを破って優勝したが、U.S.オープンだけ見ると、1年前からほとんど進歩していないように見える。才能溢れるジョコヴィッチだが、重要な場面での勝負弱さを克服できないと、ナダルフェデラーの地位を脅かすことはできないだろう。

ナダルやジョコヴィッチやマレイといった若手の台頭とフェデラーの復調。来年の男子テニス界はかなり面白くなりそうだ。