サーブ&ボレーの退潮

ここ数年のテニスで気になっていた現象の一つに、サーブ&ボレーの退潮がある。かつては、マッケンロー、エドベリ、ベッカー、サンプラスのようにサーブ&ボレーで試合を組み立てる選手が数多くいたが、最近はほとんど見かけない。現在最もネット プレイが巧いフェデラーも、サーブの後いきなりネットに詰めることは少ない。

この理由をウィンブルドンとそれ以外で分けて考えてみよう。ウィンブルドンの場合は、芝の質が変化したことが原因だ。一時期サーブ&ボレーが余りに優位で、ラリーが続かず試合が詰まらないという強い批判があり、ウィンブルドンは芝を変えてサーフェスを遅くしてきた。

今年のウィンブルドン決勝のTV放送で、それがはっきりと判る映像があった。数年前と今年のフェデラーのサーブの軌跡をCGで再現した映像を見ると、今年の方が数年前に比べてバウンドした後の速度が遅く、かつ高く弾んでいる。つまり、ここ数年の間でもウィンブルドンサーフェスの性質は徐々にクレイに近くなってきているのだ。

また、それを裏付けるパトリック ラフターの興味深いインタビューを見つけた。

http://www.blackrocktourofchampions.com/5/news/2008/pat.asp

サーブ&ボレーの名手であったラフターは、ゴラン イワニセビッチの言葉を引用して次のように語っている。

"Goran said it’s incredible how slow the grass is now. He spoke to Federer about it and told me that’s why Federer doesn’t serve and volley, it’s just too slow."

ウィンブルドンサーフェスは遅くなりすぎてサーブ&ボレーに向かなくなった、とはっきり語っている。

さて、以上述べてきたことはウィンブルドン特有の理由だ。ハード コートのUSオープンなどでもサーブ&ボレーが見られなくなった理由が判らず、今まで釈然としない気持ちでいたのだが、先述のラフターのインタビューに鍵があった。

"You don’t see a lot of players coming to the net anymore so I think there is room for it. It’s has to be executed very well though because the rackets and the strings are very powerful, which makes it very hard to come to the net at the moment."

ラケットとストリングがパワフルだからネットプレイが難しいというのは、やや解りづらいが、恐らく、ラケットとストリングの進化に伴いパッシング ショットのトップスピンが強くなったので、相対的にネット プレイに対してパッシング ショットが優位になったということなのだろう。

サーフェスや用具の微妙な違いが、プレイスタイルに大きな影響を与える。かつてのサーブ&ボレーの名手達も、今の時代だったら余り活躍できなかったかも知れない。