2012年男子テニス

男子テニスの2012年は、近年で最も上位選手の実力が伯仲した年だった。

 

2004年から2011年までは、ロジャー フェデラーかラファエル ナダルかノヴァク ジョコヴィッチの誰かが、グランド スラムで年間に2回または3回優勝してきた。年間4回のグランド スラムの優勝者が全て異なるのは、実に9年ぶりだ。

 

1位のジョコヴィッチは、グランド スラムの優勝回数こそ、2011年の3回に比べると少ない1回だった。しかし、出場した殆どの大会で準決勝以上に進み、安定感は一番だと言えよう。準優勝に終わった全仏と全米も、勝つ可能性の有る内容だった。ジョコヴィッチは現在最盛期にある。来年もこの調子を維持できれば、歴史に名を残す選手となるだろう。

 

2位のフェデラーは、ウィンブルドンで史上最多タイの7回目の優勝を果たし、半年間1位に返り咲いた。2010年の全豪以降グランド スラムで優勝できない状況下で自分を信じ続けたのは見事だ。1位在位期間も、ピート サンプラスの286週間を上回る302週間となり、史上最高の選手の地位を確たるものにした。フェデラーは31歳だが、現在でも調子のいい時は全盛期並みのプレイができる。しかし、体力面の衰えにより、きついスケジュールの中で調子を維持するのは難しくなってきている。全米の後、珍しく「疲れた」と弱音を吐いていた。来年はフェデラーは出場大会数を絞ってくる。フェデラーのキャリアが終盤にあることは否定できないが、グランド スラムで後2-3回は優勝してくれるものと期待したい。

 

3位のアンディ マレイは遂にブレイク スルーを果たした。ウィンブルドンの決勝でフェデラーに負けて涙を流したものの、その1ヶ月後に同じコートでフェデラーを破ってロンドン オリンピックの金メダルを獲り、その余勢をかって全米でグランド スラム初優勝を果たしたとは、劇的な展開だ。去年までのマレイは、大勝負で粘りに欠けることがしばしば有り、グランド スラムで勝てないような感じがしたが、今後は何回か優勝しそうだ。

 

4位のナダルは天国と地獄を味わった。モンテ カルロで8連勝し、全仏でもビョルン ボルグを上回る7回の優勝を果たし、史上最高のクレイ コート選手の地位を確たるものにした。しかし、ウィンブルドンの2回戦で負けてから、膝の怪我で半年も戦列を離れることを余儀なくされた。今までも怪我で試合を棄権することは度々有ったが、こんなに長期間欠場することは、トップ クラスの選手となってからは初めてだ。ナダルは来年27歳になる。肉体的にはそろそろピークを過ぎかける年齢であり、体調の整え方がこれまで以上に重要になってくる。

 

5位のダヴィフェレールは、30歳にして人生最高のプレイをしている。フェレールには強烈な決め球が無いが、粘り強く良く走る。率直に言って、フェレールがグランド スラムで優勝することは無いと思うが、現代の男子テニスにおいて、身長175cmの選手が5位に付けているのは、称賛に値する。

 

フェレールより下位の選手で印象に残ったのは、7位のジャン マーティン デルポトロだ。2009年に21歳で全米で初優勝した後、怪我もあって暫く低迷していたが、今年は順位を上げてきた。以前はパワーがあるものの俊敏性に欠ける感じがしたが、最近は動きも良くなってきている。1-2年以内に4強を脅かす存在になるかもしれない。

 

年末にテニス界を驚かせたのは、予選から勝ち上がってパリ マスターズの決勝まで進んだ26位のヤノヴィッチだ。僕はサイモンとの準決勝を見たが、この21歳のプレイは衝撃的だった。203cmの巨体から繰り出すショットは、デルポトロやベルディヒをも上回るパワーを誇る。セカンド サーヴは、普通の選手のファーストなみの速さだ。長身にも関わらず中々器用で、ドロップ ショットでいくつもポイントを取っていたし、ボレーも悪くない。大きな体格の選手がパワーで相手を圧倒する様は余り好きではないが、ヤノヴィッチのプレイの凄さは認めざるをえない。1回の大会で判断するのは早すぎるが、この調子を続けられれば、トップ10に入ってくるだろう。

 

活躍する選手の影では、表舞台から姿を消す選手も居る。30歳のアンディ ロディックは、かつてのようなプレイができなくなり引退した。若干20歳で1位になった天才レイトン ヒューイットは、未だにかつての栄光を取り戻せていない。2009年と2010年に全仏で準優勝したロビン ソダリングの名前を、いつの間にか聞かなくなった。テニスの世界は厳しい。