1989年前仏決勝:チャン対エドバーグ

僕がテニスを見始めたのはマッケンローの全盛期で、好きな選手はマッケンロー ⇒ エドバーグ ⇒ アガシフェデラーと移り変わってきた。この中でアガシは若干異質だが、他の選手は繊細なタッチを持つ技巧派で、攻撃的なプレイを特徴とする。

彼らのもう一つの共通点が、他のサーフェスに比べて全仏で弱かったということだ。アガシフェデラーは優勝が1回ずつで、マッケンローとエドバーグは決勝で1回ずつ接戦を落としている。

1989年の全仏の決勝でエドバーグがチャンに負けた時は、非常に落胆した記憶がある。この時点でエドバーグは既にグランド スラムで3勝しており、対するチャンは未だ17歳で殆ど実績がなかった。僕を含め多くの人が勝つと予想していたエドバーグがフルセットの末に負けてしまい、サーヴ&ヴォリーで全仏に勝つことがいかに難しいか思い知らされた試合だった。

長い間この試合を再見する気は起きなかったが、落胆の感情はほとんど消えており、WOWOWで再放送があったのを機会に再見してみた。

20年以上前の試合だから当たり前かもしれないが、試合内容は殆ど忘れていた。先ず驚いたのが、チャンのリターンの位置だ。エドバーグのファースト サーヴでも、ベイス ラインよりかなり内側に構えてリターンする。この奇策に動揺したのか、第1セットではエドバーグのサーヴが乱れてしまう。もう一つ意外だったのが、チャンがラリーの中から積極的に機会を捉えてネットに詰めることだ。長い間、チャンはひたすらベイス ラインで守る選手だと思い込んできたが、僕の記憶は随分いい加減なものだ。

改めて感じたのは、エドバーグのフォア ハンドの弱さだ。歴代のランキング1位の選手の中で、最も弱いのではないだろうか。エドバーグはコンティネンタル グリップという非常に薄いグリップでフォア ハンドを打つ。このグリップでスピンをかけるのは難しいが、エドバーグは無理に厚めのスピンをかけようとする。しかし、しばしば球の当たりが薄くなり、結果的にフォアハンドは威力に欠け、かつ浅くなってしまう。クレイ コートなので、エドバーグ得意のサーヴ&ヴォリーが簡単に決まらず、ラリーが多くなる。エドバーグのフォア ハンドが浅くなったところを、チャンが叩いてネットに詰めて得点をする場面が何度もあった。エドバーグのバック ハンドは安定していて球も深くコントロールされていただけに、フォア ハンドの弱さが際立ってしまう。

第1セットで乱れたサーヴが安定し始めたエドバーグが、第2、第3セットを連取したが、第4セットは接戦の末にチャンが奪う。第5セットに入ると、エドバーグに疲労の色が濃くなり、エラーの山を築き始める。最後はフォア ハンドのエラーでエドバーグが自滅したような感じだった。

史上最年少でグランド スラムに優勝したチャンだが、結局はこの全仏がグランド スラム唯一のタイトルとなってしまった。チャンがその後伸び悩んだのは謎だ。